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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)384号 判決 1953年2月13日

主文

原判決を破棄する。

被告人渡辺信男に対する本件公訴事実中昭和二一年勅令第三一一号違反の点は免訴する。

前項以外の事実につき本件を大阪高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人戸田善一郎の上告趣意第四点及び弁護人浜田博の上告趣意第二点について。

原判決は、判示第一の三において、

被告人等五名は共謀の上、判示営団が滋賀銀行に別途預金として預けていた昭和二二年七月三一日現在二百四十五万六千八百三十一円五十四銭の利益金は国庫に納入すべきものでそれまで右営団で保管しておかねばならないのに同営団職員の生活資金として支給する目的で被告人渡辺はその任務に背いて同年一二月中旬営団職員の月俸の約二ケ月分に相当する右預金を現金で払戻を受けた上本部職員の分は滝川市沿に各出張所職員の分は各出張所長に交付して右営団に同額の損害を与えた。

と認定した

しかしながら、被告人渡辺が判示利益金保管の任務に背いて、同営団職員の生活資金として判示の金員を職員に交付したとしても、右職員に対する生活資金の交付が同営団として当然為すべき出捐であるとしたならば、右金員の交付を以て直ちに同営団に対して財産上の損害を与えたものと速断することはできない。すなわち、論旨にいうがごとく右金員の支給が、実質上年末賞与たる性質を有し、営団として当然支出すべき費用に属するものであるかどうかは本件背任罪の成否に影響を及ぼすこと勿論であるといわなければならない。又若し原判決は、国庫に納入すべき利益金を他の使途に流用したこと自体を以て背任罪を構成するものとする趣旨ならば、それがため国庫に対する納付不能となり国庫に損害を与えたというは格別、判示のごとく「右営団に同額の損害を与えた」とするがためには、右背任と損害との因果の関係について、審理判示するところがなければならない。しかるに原判決は、これらの点について確定するところなく、たやすく背任罪の成立を認めたのは到底審理不尽引いては理由不備のそしりを免れないものというべきである。

しかして、右の違法は、被告人五名に対する原判決の事実の確定に影響を及ぼすことは明らかであるところ、更に職権で調査すると被告人渡辺信男に対する公訴事実中昭和二一年勅令第三一一号違反に関する事実(原判決判示第三の事実)は、昭和二七年政令第一一七号により大赦があったのでこの点をも併せて刑訴施行法二条、旧刑訴四四七条により原判決を破棄することとし、その余の論旨について判断するまでもなく、同四四八条の二により原判決中大赦にかかる部分を除きその余を原審に差し戻すべきものとし右大赦にかかる点については同四四八条、三六三条三号により被告人渡辺信男を免訴するものとする。

右は全裁判官一致の意見である。

裁判長裁判官塚崎直義は退官につき本件評議に関与しない。

(裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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